覚えた頃にはまたいなくなってしまう


アルバイト最終日。
外は晴れて、絶好の豆腐日和。
平日、しかも百貨店の売り上げの落ちやすい水曜日だというのに
かなり大忙しだった。
その上、この期に及んで豆腐が無い...ぎゃー
アルバイト最終日なのだから
普通に接客に専念したいという思いがあったのだけれども
(てか本来なら最終日だからとか関係なく当たり前のことだけれど)
品物が無いので、今日もお客さんに謝る。
なんで最終日にもなって、お客様に頭を下げているのだろう。
豆腐屋に豆腐が無いなんて本当に考えられない。


品物が無くて帰っていくお客さんを見送りながら
この店は本当に長く続かないだろうなと思った。
現場のニーズも何もわからないズブの素人が
適当に配置換えしたり発注に口出ししたり
その上何もかもが中途半端だなんて。


6月のシフトをちらっと見てみたら、クレームの嵐が巻き起こることが
容易に想像できて胃がきゅんきゅんした。
結局クレームを出して一番つらいのは、直接接客する現場の人間だし、
ってかクレームを出していることでお客様には多大な迷惑が生じているわけで、
クレームを必要悪的に軽く考えてしまうその精神が納得できない。
そんなことを繰り返していたら確実にお客は離れてしまうのに。


今日よくお豆腐を買いにきてくださるお得意様が
帰り際にこんなことを言っていかれた。
「あなたは顔はわかるけれど、名前まではわからないのよね。
みんなだんだん顔がわかるようになるんだけれど、
顔を覚えた頃にみんないつの間にかいなくなってしまうのよね」


まさか今日で辞めますなんて言えやしませんでした。
私が去ってもまた別の従業員がそのお客様の対応をして、
いつしか顔を覚えてもらえるようになるのだろう。
私がいなくなってもいつも通りの日常があって、
今日と同じようにお店は続いていくのだろう。
そんなのあたりまえなんだけど、すごく変な気持ちでいっぱいになった。


最終日だったので、ほかのお店の知り合いの方から
いろいろとプレゼントをもらった。
辞めてしまうとほとんど会うことがなくなってしまうけれど
こういうつながりは大事にしていきたい。


卒業するのは私だけで
明日からも10時から20時まで、
毎日毎日変わらぬ日常が繰り返されていく。
学校を卒業するのだったらみんな一緒にそこからいなくなるわけだけれど
一人だけ卒業するのってすごく変な気持ちだ。あ、私の場合は7人一緒にだけど。


ちょうどバイトを初めて丸3年になる。
自分自身に、卒業おめでとう。