ひととして

新宿の地下道でバイトをしている。
土地柄、ホームレスが多い。
伊勢丹デパ地下時代にも
ホームレスが試食を食いにきてたけど
ここの地下道にもいるのです、試食魔が。


おばさん(推定)


いつもいつのまにかスッと現れて、
3〜4個試食をつかんで去っていく。
試食という制度は、一応買う意思のある人へ向けたサービスで、
まあ実際その商品を買ってくれなくても
足を止めるきっかけになったり、次につながったり
会話のチャッチロールのきっかけになったりする。


一応お客様のために試食を出しているので
ホームレスのお腹を満たす為に出しているわけではない。
だからみんなおばさんが出現すると殺気立つ。
試食に手を伸ばした瞬間に、さっと試食を引っ込めたりする。


わたしは、なんかこういうときの正答がよくわからないんだよ。
毎日毎日大量のパンをゴミとして捨てる。
そのすぐ隣で、お腹をすかせている人がいる。
毎日大量にパン捨ててるんだから、
ホームレスにあげたっていいんじゃないの?
なんて思わなくもない。


でも、そしたら秩序が乱れてしまうと思う。
みんな働いて得たお金でパンを買っているのに
そうしてお店も利益を出しているのに。
お腹をすかせている人にパンを配ったら
一見無駄が無く、うまくまわっているように見える。
だけどさ、それじゃあ真面目に働く意味って何?
資本主義という制度の国で
運とか才能とかを駆使しながら
みんな働いて生きている。
その中で、「なにもしない」しかしてないひとが
ぬくぬくと食いもんにありつけてしまうのだったら
真面目にやった人が馬鹿を見るみたいじゃない。
実際世の中はそんなに甘くはないけど。


でもね、すごくショックなことがあったのです。
地下道をバイト先に向かって歩いていたら、
例の試食魔のおばさんが、私の前方を歩いていたのです。
本当かどうかは知らないけど、ホームレスの大半は男だから
女のホームレスってもうレイプされまくって
頭がおかしくなるっていうじゃない?
そのおばさんも、歩きながらひとりで何かぶつぶつ言っているんだけど
彼女が、地下道の途中でふと、歩くスピードを落としたのです。
なんだろう、と思ってみてみると、
彼女の視線の先には、きれいな服があった。


なんか、すごい、ショックだった。
私は、ホームレスをなんだと思ってたんだろう。
彼女も人間で、女なんだな、というあたりまえのことを
彼女のその行動で、気づかされた。
結局、ヒトだとおもってなかったってことだよね、
まさかきれいな服に興味があるなんて思わなかった。


世の中にはどうしていいかわからないものがいっぱいで困る。